お金や地位は、飯の美味さを保証しない「工夫次第でビル・ゲイツよりも美味い飯は食べられる。」

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ここ最近、日本でもオーガニック・フードというものが一般的になり始め、日本を拠点とするオーガニック・マーケティング・リサーチ(OMR)の調査報告によると、2011年の段階で既に、化学肥料や農薬に頼らず、自然の摂理に沿って栽培される有機農産物は、一般の農産物に比べて売り上げが伸びており、特に高級スーパーでは5店に1店が売り上げを伸ばしているという結果が出ているそうです。

しかしその一方で、日本では「有機野菜」「オーガニック・フード」という言葉の認識が曖昧なため、消費者が「有機野菜を買っている」と思っていても、それが実は本物の有機野菜ではないということが往々にして起こっています。

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↑結局何が有機野菜なのか、定義がもの凄く曖昧 (Hari Prasad Nadig)

またOMRの調査によれば、有機野菜やオーガニックという言葉は97%の人が知っていても、正確に理解している人は5%にすぎないという結果が出ており、「生産者の顔が見える」、「こだわり有機野菜」などというマーケティングだけが先行して、どうみてもおかしい農産物がスーパーに並べられているという声もあります。

有機食品の購買動機には、健康、安全、そしておいしいといった自分の利益を追求するアメリカ型と、理念に共鳴、そして環境によいという社会性・公共性を意識したヨーロッパ型があり、日本の消費者はどちらかというとアメリカ型だと言われていますが、そもそも「食べる」という行為自体が、栄養と共に危険要素も体内に取り込んでしまうため、科学的に100%安全な食物というものは存在しません。(4)

実際は消費者の舌が壊れていて、しっかりとした価値が理解されておらず、「有機野菜だと思っていたが、実は有機野菜ではない野菜」を購入している人たちが多いため、世間的には有機野菜の売上が伸びているという空気が漂い続けています。

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有機野菜の意味を正確に理解しているのは、世の中のたった5%(Open Grid Scheduler)

「有機はすばらしい」という価値観が先行してしまうと、本当のことが何も見えなくなってしまい、さらに都会に住んでいる人は自然や農業から極端に離れているため、農家を特に美化しがちで、これが「ダメな有機野菜」がどんどん広がっていく原因の一つとも言われています。

よくテレビで、東京で脱サラした中年夫婦が田舎で農業を始めるという番組がありますが、実際の農業はそんな甘いものではありません。自然環境にしっかり適合した美味しい農作物を作れるかどうかは、農薬を使わない有機栽培かどうかという問題ではなく、農業者に技能があるかの問題であって、技能がない人が始めれば、出来の悪い農作物を作り、逆に環境を破壊する原因になります。(1)

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↑「自然と共に生きること」はそんな簡単なことではない  (Matthias Ripp)

本当に良い農作物を作る人は、昆虫の飛び方、草花の伸び方、そして風の吹き方などから自然の状況を観察し、数ヶ月先までの天気予報を予想したり、台風がどれくらいで来るのか、夏の温度がどれくらいになるかを言い当てることができると言います。

やはり、どれだけ栽培技術や品種改良が発達しても、旬の時期でない夏場に獲れたほうれん草は美味しくありませんし、多くの人が栄養バランスを気にする時代なので、緑黄色野菜は年間を通じて需要がありますが、やはり一年を通じた味の平均点はどんどん下がってしまっているのが現状です。

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↑一年を通じた野菜の平均点はどんどん下がっている  (David Saddler)

明治学院大学経済学部教授の神門善久氏によれば、通常マスコミというのは、世間の評判が悪い人たちであれば、必ず金儲けのネタを隠しているはずだと疑いの目を向けますが、なぜか農家には健全なイメージだけが染み付いてしまっていて、同情的なでっちあげのストーリーが堂々と通じてしまうことがよくあると言います。

もちろん、マスコミによって作られた美しいストーリーを鵜呑みにしてしまっている消費者にも責任はありますが、その反省も踏まえて、まずは消費者自身が、手軽に簡単によいものを手に入れようなどと、ムシのよい考えを捨てなければなりません。

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↑なぜか農業の健全なイメージだけは美化されてしまう  (ruma views)

今後はオーガニックな食べ物以外にも、日本企業が中国の農業企業と資本・技術提携をし、中国で作った加工品を日本へ持ち込む販路を提供しており、「毒入り餃子」、「メラミン入りの乳製品」そして、「添加物だらけの加工輸入食品」など、しっかりと自分の意志で食べ物の経緯を調べようとしないツケは、今後日本人の健康に大きな影響を与えることが予想されます。(2)

味の素のマーケティング担当者によれば、味覚には臨界期があり、3歳〜中学生までに成長が止まってしまうとも言われており、そう言った意味でも、消費者がもう一度自分の舌を鍛えたうえで、自ら農村に出向き、農業者としっかりとした信頼関係を作った上で、食べ物を購入するぐらいの覚悟がなければ、本当の健康は手に入れられないのかもしれません。(3)

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↑消費者が今一度、舌と感覚を鍛え直さなければならない  (Takuma Kimura)

人生の幸福という観点で考えた時、「メシがうまい」ということが、自分の地位や財産を超えて、大きなウエイトを占めているのではないでしょうか。明治学院大学経済学部教授であり、「日本農業への正しい絶望法」の著者である神門善久氏も次のように述べています。(5)

「お金や地位は、メシのうまさを保証しない。貧しい人や失意の人が、 家族の団欒の中でひと口のスープをすすって至福を得ることがある。どんな人にも、工夫次第で“ビル・ゲイツでもこれだけうまいメシは食えまい”と胸を張るような食事ができるはずだ。」

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↑「メシがうまい」というのは幸福の大きなウエイトを占める(duckduckchuck)

ただ、これだけ文明が発達し、自分の好きな食べ物がいつでも、どこでも手に入る世の中で、完全に自然と調和した食生活を送ることは、思った以上に困難であることは事実です。

しかし、意識しなければ企業は「オーガニック」、「有機野菜」という言葉を巧みに使って、様々な食べ物をあなたの口の中に運んできますが、基本的に人間の体は食べたモノ以外で作られることはないので、何を食べるかによってあなたの人格が作られていると言っても過言ではありません。

言葉ではなく、“舌”を鍛え、感覚で判断していくことが大切なのではないでしょうか。 “舌”で判断して問題なければ、それがあなたに合った食べ物だということなのでしょう。

※参考文献

1.神門善久「日本農業への正しい絶望法」(新潮社、2012年) Kindle P205
2.高橋 五郎「農民も土も水も悲惨な中国農業」(朝日新聞出版、2009年) Kindle P209
3.渡邉 正裕「10年後に食える仕事、食えない仕事」(東洋経済新報社、2012年)
4.神門善久「日本農業への正しい絶望法」Kindle P2429
5.神門善久「日本農業への正しい絶望法」Kindle P2297

その他の主な参考書

・神門善久「日本農業への正しい絶望法」(新潮社、2012年)
・高橋 五郎「農民も土も水も悲惨な中国農業」(朝日新聞出版、2009年)
・久松 達央「キレイゴトぬきの農業論」(新潮社、2013年)

ABOUTこの記事をかいた人

真面目系会社員を経てライターへ転身。社会と日本海の荒波に揉まれながら日々平穏を探している。好きなものは赤ワイン。止められないものは日本酒。夢はいつか赤ちょうちんの灯る店で吉田類と盃を交わすこと。