原爆を体験した日本の原子炉の保有数は世界第3位「自分たちの細胞を傷つけ続ける日本人と70年という時間が教えてくれるもの。」

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東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所の事故から5年が経つ今も、地面に降り積もり、海に流れ出る放射性物質をすぐに解決する術は無いに等しく、昨年の9月の時点で公表されているだけでも約20万人という避難者は「元には戻れない」という現実をつきつけられていますが、「東京が壊滅する日―フクシマと日本の運命」の著者:広瀬隆さんによれば、この大事故以来、日本で暮らしてきた私たちの細胞も空気や水などを通じた被爆によって傷つけられていて、もう「リセット不能」なのだといいます

第二次世界大戦の原爆で、放射能の恐ろしさを一番よく知っている私たちの住む日本は皮肉にも原子炉の保有数では世界第3位で、世界の原子炉の1割に及ぶ43基の原子炉を持っています。

東日本大震災を機に一度はすべてを停止させていたものの、現在九州電力と関西電力がすでに原発を再稼動させているという現状は、原発の稼動によって必ず生まれる有害な「放射能のゴミ」を無害にする方法が、今のところ「10万年」という時間以外に見つかっていないために、ゴミ捨て場とされる地方や自然があるという状況よりも、電気を使う私たち消費者目線で「電気を十分に使いたい」という目先の欲求のほうを、優先してしまっているところがあるからなのかもしれません。

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↑原子力の怖さを知っているはずの日本人が、皮肉にも原子炉保有国ランキング第3位。

もともと原子炉は原爆を作るために生まれ、広島や長崎の原爆と同じように、ウランやプルトニウムという放射性物質を核分裂させてエネルギーを起こしますが、それ自身が放射性物質であるウランを核分裂させると、ウランよりも放射能が一億倍強い物質が生まれてしまいます。

この危険性に気づいた科学者たちが戦後70年以上をかけて研究をしていても、無害化する方法を見つけることができずにいる中で、未だに燃え続ける原子炉は、大変な危険性を持つ「放射能のゴミ」を生み出し続けており、私たちは自分の国の中で思いきって深呼吸をすることすらできません。

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↑未だに自分の国で、思いきって深呼吸することもできない。

原子炉は核兵器を作り出すのにもかかわらず、原爆によって苦しめられた戦後の日本で建設が次々と進んだのは、日本が戦後復興に沸き、エネルギーが必要となる中で、原子力を悪用するのではなく発電に活用して、国を豊かにしようという「核の平和利用」の宣伝が猛烈に流されたためでした。

多くの日本人が原爆の当事者として、原子力という発明を悲劇で終わらせるのではなく、未来につなげられるという希望を持ち、電力として原子力を平和利用してもらえれば、自分たち背負った苦しみが癒されると考えるようになったということが、原子力の普及の背景にあります。

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↑戦後から政府の原子力を推奨するキャンペーンが盛んに行われた。

京都大学原子炉実験所で助教授を務めていた原子力工学者の小出裕章さんは、戦後当時自分も国の原子力キャンペーンに乗せられ、一度は国に騙されてしまったと述べており、原爆展ですさまじさや悲惨さを目の当たりにしたからこそ「原子力を平和のために使わなければならない」という宣伝に強く共感し、原子力工学の道に進んだのだと戦後当時を回想しています。(1)

「悲惨な原爆を落とされた大和民族の自分は、原子力を平和的に使う義務がある、日本という国こそが原子力の平和利用の先頭に立たなければいけないと思い込んだのです。」

しかし、大学で原子力の危険性を理解し、平和利用などできるわけがないことに気づくと、目的を転換して「反原発」「核廃物の無毒化」について研究を進めるようになり、その後30年以上反原発を訴え続けています。

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↑日本であるからこそ、原子力を平和に使う義務がある。

ソフトバンクの孫正義社長も、負の象徴である核を「平和」用に転用することで、マイナスの力をプラスへと克服していきたいという科学者の考えがあったと述べていますが、そうして多くの人々が復興と資本主義に勢いづく中にあっても、原発を建てようとする電力会社と戦い、何十年にも渡って反原発活動を続けてきた地域もあります。(2)

山口県の祝島では30年にも渡って反原発を訴えており、毎週行ってきた反原発デモは2012年末に1,150回以上を数え、その運動を主体となってまとめてきた島の女性たちは、80歳を越える今でも路上で半日の座り込みをすると言いますが、福島第一原発事故のあと島を守り抜く人たちとともに暮らすことを望んで東日本から移住をしてきた家族は、島の人々について次のような印象を語っています。(3)

「この島の人は神様に近い。人はどうしてもギブアンドテイクで納得するけど、山や海はギブアンドギブ。ひらすら与えてくれる。そこに神様を見るんじゃないか。」


↑山や川はGive & Giveで、ひらすら与えてくれる。

古くから「神が宿る島」として知られる祝島の住民は、大正時代には貧富の差が少ないことで知られ、今でも分け合って生活する「ジンギ」という言葉が根付いていますが、その姿勢は人間だけではなく自然に対しても同じで「原発は農業や漁業、そして豊かな自然とは絶対に共存できない」と叫び続け、次のような歌も生まれました。(4)

「オシャカ様さえ言い残す 金より命が大事だと 人間ほろびて町が在り 魚が死んで海が在り それでも原発欲しいなら 東京 京都 大阪と オエライさんの住む町に 原発ドンドン建てりゃよい ここは孫子に残す町 原発いらないヨヨイのヨイ 反対反対ヨヨイのヨイ」

Hiroshima Bay, Seto Inland Sea, Japan
↑原発は自然とは絶対に共存できない。

原発や工業化によって、瀬戸内海では自然の海岸が残る地域は約2割というのに、祝島の上関町では今なお7割以上が自然の海岸として残っており、遠い昔から命をつないできた絶滅危惧種や、天然記念物の宝庫となっていますが、原発や工業化によって絶滅し「元に戻れない」生物が増え続けている中で、これ以上「命」よりも「お金」が大事だと自分の利益ばかりにとらわれていては、原発事故で体感したように私たち自身の命も大きなダメージを受け、滅びていってしまうことを常に意識しておかなければなりません。(5)

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↑誰が作ったものでもない自然まで、人間で山分けするのか。

ドイツなど、福島の原発事故を機に脱原発を決めた国もありますが、世界はすでに「ポスト原発時代」ともいえる自然から電力を起こす「再生エネルギー時代」へと移行していて、デンマークでは風力発電を主とする再生エネルギーの率は40%以上ノルウェーでもすでに100%近くが水力発電で供給されており、アメリカでもアップルのデータセンターやグーグルのオフィスは、100%再生エネルギーを利用していることをアピールしています。(6)

デンマークが、2020年までに再生エネルギー率を50%まで引き上げることを目標としているように、多くの欧州の国々では再生エネルギーの比率をあげるための協業や工夫が進んでいて、電力は国境を超え「ノードプール」という電力取引の市場で売買されるようになっていますが、これが可能となっているのは、電気を送るインフラである送電網や売り買いする取引所が誰に対してもオープンになっているという前提があります。(7)

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↑現在の意識が未来の結果に直結する。

日本でも、2016年の4月から電力の自由化が本格的にスタートし、すべての人々が自分が利用する電力を選べるようになるのを前にして、それぞれの土地に豊富に存在する、水や木くず・地熱などを使って、再生エネルギーでふるさと活性化を目指す「再生エネルギーのネットワーク」が次々と生まれています。

宮城県の気仙沼市で、豊富な木くずを燃やして発電をするバイオマス事業を立ちあげ、さらに木くずを地域限定の通貨で買い取るなどして、町全体がエコでつながる仕組みを作り「気仙沼スマートシティ」を目指して活動をしている、気仙沼地域エネルギー開発株式会社の代表:高橋正樹さんは、再生エネルギーを発展させるには「みんなが参加できる」というシステムが欠かせないということを次のように述べています。

「山の人達から、プラントから、エネルギーを使う人も携わる人も、そこから生まれる対価を使う人も、皆が理解して動かないとどこかが止まってしまったら、全部が動かなくなってしまうんですよ。“みんなで”っていうのがこの事業のキーワード。」

HDR image of a row of solar panels at sunset under a beautiful cloudscape with lens flares and sun rays

ソフトバンクの孫正義社長は、こういった協力のネットワークをアジア全体に網羅させようと「アジアスーパーグリッド構想」というプロジェクトを進めていて、石油の枯渇や原子力などのエネルギー問題を解決するために、不安定な自然エネルギーに頼ることになっても、このスーパーグリッドがあれば太陽は常にどこかで照り、風もどこかで吹いているため、電力の不足を解消することができ、さらにいろいろな国と送電線をつなぎ、様々な経路で電気を運べるようになることで、お互い電力を融通しあうという文化が生まれ、アジアの平和につながるとして、次のように述べています。(8)

「各国を“途中下車”させながら電力を日本まで運ぶことは、互いに電力融通できるネットワークを築くことにつながります。これが相互理解のきっかけとなり、アジアの平和へと向かっていくことが期待できるのです。」

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↑遠い国の人が作った電気を使うという認識が、その国を知ろうという気持ちにつながる。

前述の原子力工学者の小出裕章さんは、原子力が際限なく電気を与えてくれるとしても、誰かの健康を害してしか成り立たない豊かさは幻で、そういった一部の人の利益のためだけに存在する原子力発電は、やはり軍事なのだと述べていますが、電力の自由化によって再生エネルギーを購入する人々が増えれば、ようやく私たちはこの核戦争を終え、「戦後の平和」を実現できるのではないでしょうか。(9)

アメリカのワシントン州では「スマートメーター」といって、消費者が電力の使いすぎなどに気をつけることができるよう、30分ごとに電力使用量を確認できる情報サービスが8割の家庭で導入されているそうですが、私たちが再生エネルギーを選べば、自然と「ジンギ」で助け合う電力ネットワークや電力を無駄にしないツールが誕生し、平和による豊かさは広がっていくのです。(10)

 

※参考文献

(1)小出裕章 「100年後の人々へ」 (集英社 2014年) Kindle 726、909
(2)自然エネルギー財団〔監修〕 「孫正義のエネルギー革命」 (PHP研究所、2012年) Kindle 395
(3)山秋 真 「原発をつくらせない人びと-祝島から未来へ」 (岩波書店 2012年) Kindle 312、2432、2739
(4)山秋 真 「原発をつくらせない人びと-祝島から未来へ」 (岩波書店 2012年) Kindle 496、1647、2265
(5)山秋 真 「原発をつくらせない人びと-祝島から未来へ」 (岩波書店 2012年) Kindle 900、1266
(6)江田 健二 「かんたん解説!! 1時間でわかる 電力自由化 入門」 (good.book 2015年) Kindle 594
(7)自然エネルギー財団〔監修〕 「孫正義のエネルギー革命」 (PHP研究所、2012年) Kindle 1192
(8)自然エネルギー財団〔監修〕 「孫正義のエネルギー革命」 (PHP研究所、2012年) Kindle 1558、1588
(9)小出裕章 「100年後の人々へ」 (集英社 2014年) Kindle 1339
(10)江田 健二 「かんたん解説!! 1時間でわかる 電力自由化 入門」 (good.book 2015年) Kindle 749

ABOUTこの記事をかいた人

真面目系会社員を経てライターへ転身。社会と日本海の荒波に揉まれながら日々平穏を探している。好きなものは赤ワイン。止められないものは日本酒。夢はいつか赤ちょうちんの灯る店で吉田類と盃を交わすこと。