「1,450円」の豊かさ

  • 機能性発酵飲料「_SHIP KOMBUCHA」の製造販売
  • 100% Plant-Based/Naturalな素材にこだわったカフェ「1110 CAFE/BAKERY(川口市領家)、「BROOKS GREENLIT CAFE(港区南青山)」の運営
  • 約3000坪の自社敷地を活用した各種イベントを開催
  • 自社農場で野菜の有機栽培に挑戦
  • サーキュラーエコノミーの実践                        などなど

素敵な環境を創造し続け、世の中を笑顔で満たす活動をしている、大泉工場のKANです。

2週間前のコラムでも書いたとおり、僕は運よく、EXPO2025大阪・関西万博に行くことができた。
あの体験を自分なりに振り返っているうちに、ひとつの問いが浮かび上がった。
それは「豊かさとは何か」。
もっと言えば、心の豊かさとはどこから生まれるのか。
そのことを、少し掘り下げてみたくなった。


価値の基準

僕は普段、消費に対してはかなりシンプルな価値観をもっている。
「良いもの(意味のあるもの)は高い。悪いもの(価値のないもの)は安い。」
極論かもしれないが、だいたいこの基準で買い物をしている。
もう少し正確に言えば、「ストーリーがあって良質で、お値ごろなもの」を好んで選んでいる。

_SHIP KOMBUCHABROOKS GREENLIT CAFE のサンドイッチのように、背景や思想のある商品は、それだけ製造コストも高い。だからこそ、胸を張ってその対価をいただける。
僕ら販売する側は、ただ商品を売るのではなく、その「意味」をどう伝えるかまでが、仕事だと思っている。


万博の熱狂と違和感

ところが、万博の会場ではその価値基準が一瞬で崩壊した。
会場を歩く人たちは、もう「買う」というより「祭りに参加する」テンションだった。
売店に並ぶ公式マスコットのグッズは、飛ぶように売れていく。
値札を見ずに財布を開く人々。
「期間限定」「ここでしか買えない」「記念」「思い出」——そんな言葉が購買意欲を支配していた。

そこは多分、何を置いても売れる。
まさに“入れ食い状態”だった。

僕はその光景を眺めながら、「これはもう経済行動ではなく、感情の爆発だな」と感じていた。
そしてそのエネルギーに、羨ましさと、少しの畏怖を覚えた。


セムラ1,450円の衝撃

そんな中で、僕が最も印象に残ったのは、北欧館の屋上で出会った「セムラ」というスウェーデンの伝統菓子パンだ。
カルダモンが香る丸いパンに、アーモンドペーストとホイップクリームが詰まっている。
日本でいうところの「あんぱん」みたいな存在だ。

北欧では、寒い冬に食べる定番の菓子パンらしく、見た目も可愛らしい。
ただ、ここで問題がひとつあった。

この「北欧グルメレストラン」、ポスターもおしゃれで、食欲をそそるメニューが所狭しと書かれているのだが、そこには値段が書かれていない。
つまり、レジに行くまで価格がわからないのだ。
値段が見えないまま行列に並ぶ——この妙なスリルを味わったのは初めてだった。

「まあ、700〜800円くらいかな」
そんな予想を立てて、軽い気持ちで列を進む。

そしてレジで表示された数字に、久々に震え上がった。
税込1,450円。
145円ではない。1,450円。
菓子パンひとつで、だ。

一瞬、手が止まった。
でも、列の後ろには人が並んでいる。お腹も減っているし、何より20分近く並んでしまった事実は変えられない。
気づけば僕は、1,450円のセムラを受け取り、無意識のうちに席へ向かっていた。

皿の上には、ほんのり冷めたパン。
その価値をどう受け取るか——僕の脳はしばしフリーズしていた。

味については、ここでは語らないでおこう。
良し悪しではなく、事実として「とんでもなく高い菓子パンを食べた」という体験だけが残った。


スタッフのひとこと

数日後、会社でその話を、同時期に万博へ行ったスタッフにした。
僕が「いや〜、セムラ1,450円とは、さすが万博だね。」と笑いながら話すと、そのスタッフは一言、
「海外旅行に行ったと思えば安いですよね。」

その瞬間、僕は軽く膝から崩れ落ちそうになった。
なんという豊かな発想だろう。

僕は“高い”という現実ばかりを見ていたのに、
彼女は“旅の一部”として、万博での体験をまるごと受け入れていた。
同じ出来事を、まったく違う角度から捉えていたのだ。


心の豊かさとは

あの一言をきっかけに、僕は考え始めた。
心の豊かさとは、つまり「意味づけ次第」なのかもしれない、と。

1,450円という数字は変わらない。
でもそれを“ぼったくり価格”と見るか、“異国を感じた体験料”と見るかで、心の状態はまったく違う。
後者のほうが、断然、豊かだ。

同じ空間、同じ物、同じ時間でも、人によって見える価値は違う。
それは金額では測れない、心の筋肉のようなものかもしれない。


万博で見た「豊かさの多様性」

万博の会場では、長蛇の列に並び、汗をかきながら笑っている人たちがいた。
パビリオンの中で展示物を隅々まで覗き込んでいる人、写真を撮りまくる人、グッズを抱えて幸せそうな人。
それぞれが、それぞれの“豊かさ”を追いかけていた。

そこに、他人の価値基準が入り込む余地がない。
豊かさは「絶対的なもの」ではなく、「相対的に感じるもの」。
自分の中にある“喜びの感度”が高ければ高いほど、どんな体験も宝石のように光る。


そして僕にとっての豊かさ

では、僕にとっての豊かさとは何だろう。
それは、“気づきのある時間”だと思う。

たとえ高いパンを食べたとしても、そこから何かを学び、考え、次に生かせるなら、それは十分に価値がある。
むしろその「ズレ」や「違和感」こそが、僕にとっての栄養になる。

ビジネスにおいても同じだ。
_SHIP KOMBUCHA を手に取ってくださるお客様の多くは、ただ喉を潤すためではなく、「自分の体に良い選択をしたい」「地球に優しい選択をしたい」という気持ちで購入してくださっている。
その“想いの部分”に寄り添えるかどうか。
そこにこそ、心の豊かさが宿る気がする。


最後に

EXPO2025で体験したあの熱狂は、単なるイベントではなかった。
人が“自分の豊かさ”を再確認するための巨大な鏡だったのかもしれない。

1,450円のセムラが僕に教えてくれたのは、
「豊かさの値段は、自分の感じ方次第で変わる」ということ。

そして、僕の中ではっきりした。
豊かさとは“持つこと”ではなく、“感じ取る力”だ。

これからもその感度を磨きながら、
心が動く瞬間を、大切にしていきたいと思う。

これがせむらです。

ABOUTこの記事をかいた人

大泉寛太郎

1981年生まれ。 学生時代より、イベントチームやフットサルチームの立ち上げ、BarなどでDJとして活動。 大手商業施設でテナントリーシングや営業企画、PR、広報など幅広い分野を経験したのち、2008年大泉工場入社、2012年より現職。 アジアからオセアニア、ヨーロッパ、北米、アフリカと世界中を飛び回り、地球の「今」を体感。 「地球を笑顔で満たす」というMISSIONを掲げ、日々、いかに「素敵な環境を創造するか」自問自答しながら生きている。