若者たちが「もっと勉強して、もっと稼いで」という言葉に違和感を感じている本当の理由。

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欲求の満たし方というのは人それぞれ違います。日々暮らすだけのお金があれば幸せという人もいれば、会社を経営して莫大な資産を築くことで、満足する人もいますし、金銭的な欲求だけではなく、人を助けたり、世の中の問題点を解決することで、自らの欲求を満たす人もいるかもしれません。

現在、ほとんどの国が導入している資本主義は人とお金の流れを効率化させて、大量生産をするという考え方のもと進められ、過去数百年の間、人類はこのシステムの恩恵を受け、私たちの生活の質は劇的によくなっていきました。

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↑資本主義の恩恵を受けて、私たちの生活は劇的に豊かになった   (Tom Roeleveld)

さらに、90年代後半から始まったIT革命やグローバリゼーションが資本主義を加速させて、「人・モノ・カネ」が国境を超えて動き回ることで、人類の発展は先進国だけではなく、世界規模にまで広がりましたが、私たちはつい最近まで、その裏で広がる世界規模の貧困に全く目を向けていませんでした。

ちょっと統計を見ただけでも、世界人口の約50%は1日2.5ドル以下で生活し、貧困で毎日亡くなる人たちは22,000人、綺麗な水にアクセスできない子供は11億人もおり、世界的にもよく知られるジャーナリストのトーマス・フリードマンは、IT革命とグローバリゼーションにより世界が「フラット化」したことで、世界がどんどん良くなってきていると述べましたが、実際はまだまだ理想と現実の差は激しいようです。

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↑ITとグローバリゼーションは貧困にどう影響を与えるのか(Shahnawaz Sid)

近年、資本主義を謳歌して利益を出し続ける企業が増える中で、世界の厳しい状況が少しずつ先進国の人にも伝わり、お金を稼ぐよりも世界のより大きな問題を解決することに喜びを感じる人たちが増えてきています。多摩大学大学院の教授で、社会起業家フォーラムの代表を務める田坂広志さんは、長期的に見れば、「営利企業」と「非営利組織」はどんどん統合されていき、最終的にはすべての組織が「社会的企業(Social Enterprise」という組織に進化していくと言います。(1)

確かに宣伝やプロモーションを見てみても、CSR(企業の社会的責任)を行なっていることをアピールする企業が増えてきました。ハーバード・ビジネス・スクールの研究によれば、一昔前、社会的責任を重視した企業への投資は、サブ・プライムローンなど金融商品などに比べて、リターンが明らかに少なかったのですが、今では市場平均を上回る成績を残すようになってきており、現在では世界のトップ企業の5社のうち4社が利益とは直結しない活動をしています。(2)

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↑5社のうち4社が利益とは直結しない活動をしている。(Cabinet Office)

日本では、20世紀の資本主義の概念を持っている人の力が強く、社会的企業という概念はあまり世の中に根付いていませんが、「いい大学に入れば、いい会社に就職できる。だから今頑張れば、将来安泰だ。」と親の世代から教えこまれた子供達が大人になって不況にぶち当たり、これが正しい未来なのかと少しずつ疑問を感じているのも事実です。

もともとはベンチャー企業を経営し、現在は認定NPO法人フローレンスの代表理事を務め、Newsweek日本版の「世界を変える社会起業家100人」に選出された駒崎弘樹さんは次のように述べています。(3)

「起業家の先輩方の“これからは◯◯だ”という会話にも、違和感がぶくぶくと膨らんでコップからあふれるようになってきた。彼らは、盛り上がりそうなところを見つけて、そこに飛び込んでいく。中国がお金になりそうなら、中国に。携帯がお金になりそうなら、携帯に。」

「先を行く起業家の方々と話せば話すほど、よくわからなくなってきた。」

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↑“これからは◯◯だ”と言われるたびに違和感を覚える  (Konrad Karlsson)

このような若者の資本主義に対する疑問は、先進国を始めとする世界各国で起きており、彼らは自分の創造性を十分に発揮できるソーシャル・ビジネスにやりがいを感じ、実際、世の中の社会的、経済的な問題のほとんどはソーシャル・ビジネスによって解決できると言います。

また、NPOやソーシャル・ビジネスは儲けを出してはいけないように思われがちですが、実は儲けを出しても全然問題はなく、通常の会社との一番の違いは、株式が存在し、IPOや配当など株主へのなんらかのリターンが期待される株式会社に対して、NPOはただ単純に社会的インパクトが期待され、儲かるかどうかにかかわらず、社会的問題を解決することを目的としています。(4)

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↑ソーシャル・ビジネスに対する心構えは、通常の起業家と変わらない。(The Value Web)

アフリカの人々に職を与え自立させることを目的とし、ケニア・ナッツを創立した佐藤芳之さんが「安っぽい同情や哀れみからは、真の援助は生まれない。」と言うように、一時的な救済では、問題の根本にある原因を取り除くことは不可能であり、その根源を消滅させるシステムを作ることが、本当の意味での支援と言えるのではないでしょうか。そのための手段として「ビジネスにこだわってきた。」と、佐藤さんは言います

一見、ビジネスと社会貢献は真逆の立場にあるように思えますが、「論語と算盤」の著者である渋沢栄一の理念「道徳経済合一説」にあるように、富は道徳を調和させてようやく成立するものなのかもしれません。

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↑ただの人助けではなく、あくまでビジネス  (Tech.Co)

グラミン銀行創設者で、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏は社会起業家の代表的存在と言えますが、彼いわく、ソーシャル・ビジネスが国際社会に影響を及ぼすまでには、それほど時間はかからず、2030年〜2050年の間には、人類が貧困を撲滅することができるとして次のように述べています。(5)

「ソーシャル・ビジネスに参加したいと思っている人は、“待つ必要などない”。社会全体ではなく、社会の一部になら、すぐにでも影響を及ぼすことができるのだ。」

Muhammad Yunus speaking at the "Deine Stimme Gegen Armut" (Your Voice Against Poverty) concert in Rostock, Germany on June 7th, 2007.
↑2030年〜2050年にはソーシャル・ビジネスが主流に「待つ必要などない」(Matthias Muehlbradt)

政治やビジネスにしても同じことですが、現在の世の中を動かしているのはグーグル、アップル、そしてゴールドマンサックスなど「国」という組織ではなく、国境をまたいで活動し、強いアイデンティティを持った組織集団であり、世界の問題を解決するのもその国の政府や先進国という「国」ではなく、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットなど世界に強い問題意識を持った人たちが動き始めています。(6)

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↑もう世界の重要な問題を解決するのは、国ではなく個人である  (kris krüg)

考古学の研究によれば、部族の争いが激しかった古代社会では、人が人の手によって殺される割合は25%以上にのぼり、50%を超えることも珍しくなかったと言われますが、20世紀には世界規模の大きな戦争が二つもあったにも関わらず、この割合は1%未満になっており、世界は年を重ねるごとにより裕福に、そして平和になってきています。

ビル・ゲイツは21世紀に生きる人たちに向けて次のようなメッセージを残しています。(7)

「ビジネスはもっとクリエイティブにならなければならない。いまこそそれが必要とされているのだ。だれもがそれぞれの役割を果たせば、世界は着実によくなっていくだろう。そして50年後にふりかえったとき、何億人もの命を救ってきたと言うことができるだろう。今世紀が平和の世紀だったと胸を張って言える日が、きっと来るだろう。」

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↑ビル・ゲイツ「ビジネスはもっとクリエイティブにならなければならない」(OnInnovation)

実際、自分が食べていくことが困難な時代に利益を追求せず、社会の問題を解決すると言われてもあまりピンとこないかもしれません。しかし、自分がどうかと言う前に、「お金=幸せ」の概念が少しずつ崩れ始め、世の中の大きな問題を自らの創造性で解決することに喜びを感じる人たちが増えてきていることも事実であり、それでしっかりと生計を立てている人も少しずつ増えてきています。

ビル・ゲイツの言う、「50年後の世界」はどうなっているか分かりませんが、どうせ地球に生まれてきたのであれば、使い切れないお金を銀行に貯めこんでいるよりも、世の中の問題を一つでも解決して、“21世紀は平和な世紀”だったと孫やひ孫に自慢するのも悪くないのかもしれません。

 

※参考文献

1.五井平和財団 「これから資本主義はどう変わるのか 17人の賢人が語る新たな文明のビジョン」 (英治出版、2010年)P33
2.イヴォン・シュイナード「レスポンシブル・カンパニー」(ダイヤモンド社、2012年) Kindle 227
3.野崎 弘樹 「社会を変えるを仕事にする」 (英治出版、2015年)Kindle P240
4.野崎 弘樹 「社会を変えるを仕事にする」Kindle P846
5.ムハマド・ユヌス 「ソーシャル・ビジネス革命」 (早川書房、2010年) P56
6.大石哲之「ノマド化する時代」(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2013年) P22
7.五井平和財団 「これから資本主義はどう変わるのか 17人の賢人が語る新たな文明のビジョン」P14、P21

ABOUTこの記事をかいた人

真面目系会社員を経てライターへ転身。社会と日本海の荒波に揉まれながら日々平穏を探している。好きなものは赤ワイン。止められないものは日本酒。夢はいつか赤ちょうちんの灯る店で吉田類と盃を交わすこと。