20代で富を築いたフェイスブックの創業者たちが導き出した答えは「モノから幸せを得ることはできない。」

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日本はもともと質素な生活を好む民族で、戦後ある程度豊かになった1980年頃であっても、何かを購入する際は必ず家族内で相談し、仮に臨時のボーナスがあったとしても、みんなで回転寿司に行って、後は貯金という家庭がまだまだ多かった時期でした。

しかし、次第に核家族化が進み、今までは祖父母と親子そして子供と暮らすことで、一台でよかったテレビや冷蔵庫が別々に暮らし始めることで2台・3台と必要になり、さらに政府や企業が経済を発展させるためにメディアを巧みに使って「あなたが何ものであるかは、あなたがどのような商品を購入したのかによって決せられる。」というアイデンティティーを日本人の頭の中に擦り込むことで、日本人は従来の質素な生活を辞め、次第に消費を加速していきました。(1)

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↑1980年以降、質素な生活を好む日本人のマインドが少しずつズレ始めた  (Naoya Fujii)

また、アメリカでも1980年代から90年代を通じて、中流階級の収入が増え家の平均的な大きさは50年間に2倍になり、レストランでの食事や旅行、そしてパソコンの購入などレクリエーションに使うお金もこの間に2倍以上に増えていき、ある調査によれば良い生活を構成するものは何かという質問に対し、多くの人が“贅沢品”と回答しています。(2)

しかし、2008年のリーマンショックで金融によって活性化された消費の魔法が解け、多くの人達が自分たちは、ただマーケティングやブランディングに踊らされていただけだったことに気づかされることになりましたが、その生活の変化は世界中の様々なところで見ることができます。

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↑ただマーケティングに踊らされていただけだった  (Daniel Gable)

例えば、ニューヨークの街を歩く人の服装はどんどんカジュアルになっており、最近では地下鉄や高級レストランに行ってもスーツやネクタイをしている人が本当に少なく、イギリスのBBCが英国のビジネスマン2000人を対象に調査をしたところ、スーツを毎日着るのは10人に1人しかいないことが分かりました。(3)

また、20代で億万長者となったマーク・ザッカーバーグが普通の車に乗り、ごく一般的な家に住んで質素な生活を送りながら、生涯をかけて自身の財産をすべて寄付すると公言したことは有名ですが、ザッカーバーグと共にハーバード大学でフェイスブックを創業し、現在世界一若い億万長者の一人とも呼ばれるDustin Moskovitz氏も、「モノから幸せを得ることはできない」と述べ、マンション暮らしで自転車通勤をし、さらには慈善団体に寄付しているために節約していると言います。

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↑「モノから幸せを得ることはできない」これが僕が出した結論(Ken Yeung)

また、不況を通じて商品やサービスの外見ではなく、中身を重視する人達が増え、遠い異国で作られたよく分からない安価なモノより少しぐらい割高でも、地元で作られたモノを買おうという考え方が支持される背景には、自分の消費によって周りのコミュニティや地元の経済を盛り上げようという心構えがあるようで、サンフランシスコでファッションブティック・雑貨屋、そして美容室が合体したお店「フリーマンズ・スポーティング・クラブ・バーバー」では、店舗から約10km以内で生産されたものしか販売しないというこだわりを持っています。(4)

スペインでは「数百円もするまずいコーヒーを飲む理由が分からない」と言って、スターバックスに行かない若者も増えていると言い、スターバックスにお金を払うぐらいであれば名も無い街のコーヒースタンドで一杯120円のコーヒーを飲む方がずっと幸せだという考え方を持っているようです。(5)

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↑スターバックスで一杯300円のコーヒーを飲むより、家で本当に美味しいコーヒーを飲む方が幸せ(Daniel Hoherd)

もし、私たちが常に「値段では測れない価値を心に留めよう」という意識を持っていれば、仮に経済が大きく落ち込んだとしても安売りに走らずに済みますが、日本は「失われた20年」の間に食べ物やサービスの値段をどんどん下げることで、顧客を獲得しようとしたことが経済の悪循環を生み出しました。

価格が下がれば、それにつられて維持費や賃金。そして福利厚生費なども削られ、さらに従業員の給料が減れば、景気はさらに深刻化するため、地域経済にも大きな影響が及んできますが、農産物流通コンサルタントの山本謙治氏は「日本の食は安すぎる」と指摘しており、低価格に慣れてしまった消費者が求めるものを提供され続けてしまった結果、安くて当たり前という常識を生み、安かろう悪かろうの悪循環が作り出されてしまいました。(6)

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↑安すぎる日本の食が、最終的には悪循環を生み出す  (Party Lin)

質の良い食べ物を食べると、人間性が回復するとも言われ、不況になったからと言って食事の質を落とす人はあまりいませんが、現在21世紀の新しいライフスタイルが生まれつつあるアメリカの街、ポートランドやブルックリンでは、お金さえ払えば誰でも手に入れられる高級ブランドを持っていること自体ダサイという認識もあり、このような人々は人生において必要なことと無駄なことを今まで以上に区別するようになっていくことでしょう。

日本でもこのような現象が少しずつ見え始めており、矢野研究所が2012年に行った調査によれば、1997年欧米から日本に輸入されるブランドの売上は1兆6612億円でしたが、2012年には9000億円にまで落ち込んでおり、またサンケイリビング新聞社が2012年にOLを対象に行った調査によれば、2007年「自由に使えるお金の使い道は何か?」という質問の答えは、1位が「洋服の購入」でしたが、2012年にはそれが5位に後退しています。(7)6
↑ブランドよりも、本当の意味で人間の「中身化」する世界  (Takeshi GS)

リーマンショック後、金融危機によって、物事の本質に気づいた人達がニューヨークのマンハッタンからブルックリンという郊外の街に移動し始めました。

ブルックリンは世界最先端の商業都市であるマンハッタンの二次的な都市としての位置づけでしたが、現在では物事の本質を見極める人達がブルックリン独自のカルチャーを作り上げ、食・音楽。そしてファッションなど一つの文化圏として、ニューヨーク文化に大きな影響を与えるようになってきています。

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↑ブランドまみれのマンハッタンから本質を見極めるブルックリンへ  (Jorge Quinteros)

実際、本質を見極めようとする動きはモノやサービスの消費だけではなく、人間関係にまで大きな影響を与え、連合日本労働組合の調査によれば、SNS上でつながっている関係が大切だと回答した人が46.2%だったのに対し、家の近所の人とのつながりが大切だと回答した人は82.5%に上り、フェイスブックなどのSNS上で人が親密な関係を築ける限界の数は180人だという調査もあります。

また、アメリカNBCの人気女性キャスター:ボビー・トーマスは、女性が化粧をしすぎていることに異議を唱え、メイクをしない顔をフェイスブックに投稿する「The No-Make-Up  Movement」を呼びかけており、2016年の大統領候補であるヒラリー・クリントンもその人の外見よりも、中身の方が大事だとして次のように述べています。(8)

「毎朝、45分もかけて髪を整えるよりも重要なことがあることを、スマートな女性は知っている。」

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↑毎朝45分かけて、外見を整える人は、もはやもうスマートではない  (Hillary for America)

Personality(個性・性格)という言葉はラテン語のPersona(仮面)という言葉からきており、かつて必死になって自分という人間を表現するために手に入れていた高級品は、しょせん仮面でしかなく皮肉にも経済の悪化という形でしか仮面を手放すことができませんでしたが、世界的有名な童話「星の王子さま」の一説、「心で見ないと物事はよく見えない。肝心なことは目に見えない」とあるように、目で見ることのできる外見だけでは、やはり物事の本質的な部分を判断することはできないようです。(9)

金銭で価値が測れないということは、ある意味難しい時代ではありますが、心も使って本質的な部分に注目し、人間本来の生活スタイルや価値観を取り戻すことができたのなら「自分探しの旅」などしなくても人間本来の豊かな生活を取り戻せるのかもしれません。

 

※参考文献

1.内田樹「街場の共同体論」(潮出版社、2014年) Kindle P1076
2.ジュリエット・B、ショア 「浪費するアメリカ人―なぜ要らないものまで欲しがるか」 (岩波書店、2011年) P7
3.菅付 雅信 「中身化する社会」 (星海社新書、2013年) P88
4.佐久間 裕美子「ヒップな生活革命」(朝日出版社、2014年) Kindle P916
5.高城 剛「世界はすでに破綻しているのか?」(集英社、2014年) Kindle P124
6.速水健朗「フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人」(朝日新聞出版、2013年) Kindle P559
7.菅付 雅信 「中身化する社会」 (星海社新書、2013年) P32〜33
8.菅付 雅信 「中身化する社会」 (星海社新書、2013年) P68
9.菅付 雅信 「中身化する社会」 (星海社新書、2013年)P221

ABOUTこの記事をかいた人

真面目系会社員を経てライターへ転身。社会と日本海の荒波に揉まれながら日々平穏を探している。好きなものは赤ワイン。止められないものは日本酒。夢はいつか赤ちょうちんの灯る店で吉田類と盃を交わすこと。