Plant-Basedを事業の主軸として掲げてから、気づけば10年近くが経った。
スタートを切った当時、「Vegan」という言葉はまだ日本の食分野においてほとんど実装されておらず、社内でも「本当にビジネスになるのか?社長のただの思いつきではないのか」という懐疑的な声が多数あったことを、今でも時折思い出す。
地球温暖化をはじめとした自然環境の変容、コロナ禍を通じて語られるようになった食の多様性、そしてテクノロジーの進化。そうした流れの中で、Plant-Basedという食のカテゴリーは一定の市民権を得たように感じる。
しかし、日本でも世界でも、まだまだ市場規模としてはマイノリティの領域にあるのが現実だ。
方向性は間違っていない。
それは今も確信している。
ただ、思っていた以上に、特に日本において市場は爆発的には広がっていない。
どうすれば認知は高まるのか。
南青山にBROOKS GREENLIT CAFEをオープンし、新たなPlant-Based Productsの計画も進める中で、ふと、ある光景を思い出した。
2024年3月、僕が視察した米国アナハイムで開催されたNatural Products Expo Westのことだ。
世界中のプレイヤーが集結し、最新の技術や素材、未来の食が“祭り”のようなエネルギーで発信されている場所。そこに身を置いているだけで気持ちが高揚し、出展者たちは、自分たちが食の未来を変えるのだと信じて疑わないような熱量でサンプルを手渡してきた。どれも革新的だった。
その中で圧倒的な存在感を放っていたのが、Impossible Foods※だ。
かつては深い緑色を基調とし、環境配慮や気候変動への対応というメッセージをそのアイデンティティの核にしていたブランド。
※Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)は、2011年にアメリカで創業した植物由来の代替肉メーカー。大豆などの植物から「ヘム」という肉の旨み成分を再現し、本物の牛肉のような味や食感を目指したハンバーガー用パティで注目を集めた。
ところが、その場で見たImpossibleのブースは、すっかり違う装いだった。
それは“赤”を基調とした新しいビジュアル。
以前は、植物や自然を想起させる“緑”がブランドのイメージカラーだったが、それが鮮烈な“赤”へと置き換えられていた。
最初は気づかないほど大胆な変化だった。
だが、後日スーパーマーケットで見たパッケージは、明らかに以前とは違っていた。
なぜ赤なのか。
それは直観的だ。
赤は肉やおいしさ、欲望と強く結びつく色だ。
緑は確かに環境やサステナビリティを想起させる。
だが同時に、“遠い理想”として受け取られがちな側面もある。
この色の変更は単なるデザイン変更ではない。
メッセージの順序、コミュニケーションの入口そのものが変わったのだ。
その動きは、僕が定期購読しているトレンドレポートの内容とも重なる。
ここ数年、Plant-Basedは「独立したトレンド」として語られることが少なくなったという。代わりに、健康、味と感情、原材料、サステナビリティ、さらにはAIといった主要テーマの中に自然に溶け込んでいる。
つまり、Plant-Basedは単独の旗印であるよりも、他の価値軸と組み合わされることで、現実の消費行動に近づきつつあるということだ。
その変化の本質は、“消費者の自分ごと化”にある。
Plant-Basedを環境のために選ぶことは、もちろん素晴らしい。
だが消費者の多くは、いきなり「環境のためだから選べ」と言われても動かない。
それは“正しさ”の提示であり、共感の種にはなるが、必ずしも行動にはつながらない。
Impossibleの赤いパッケージは、まさにそこを捉えたものだ。
赤が刺激するのは「味のおいしさ」や「満足感」、そして「食欲」。
その上で、たんぱく質量やコレステロールゼロといった、自分自身の健康へのメリットを訴求する。
環境メッセージを捨てたわけではない。
ただ、入口の優先順位を変えただけだ。
これは、僕ら大泉工場が向き合ってきた課題でもある。
Plant-Basedを環境や倫理だけで語るフェーズから、
人の欲望や日常生活とどう結びつけるかというフェーズへ。
ここで重要なのは、単なる“色”や“デザイン”の話ではない。
僕らが提唱するGREENLITという思想は、
環境のために良いことを“我慢してやる”状態を終わらせることだ。
理解できて、選べて、続けられる形にすること。
バカ真面目な説明だけでは届かない。
サステナブルであることは当然だが、その前に「自分ごととして選びたい理由」を提示すること。
それは“格好良さ”や“楽しさ”“便利さ”という表層的な装飾ではなく、
体験の文脈で自然に立ち上がる感覚だ。
Plant-Basedが“単独トレンド”ではなくなっているということは、ある意味で現実に近づいたということでもある。
健康、味、日常の満足感と結びつかなければ、選択として定着しない。
その現実と向き合うために、僕らはプロダクトも、コミュニケーションも、ブランドの入口も、絶えず問い直していかなければならない。
だから僕は、Impossibleの変化を他人事として見るのではなく、自らの事業に投影して考えた。
そしていつか、日本から世界へと発信されるプロダクトが、Plant-Based市場の中心に立つ日を想像している。
その時の色は、緑かもしれない。
赤かもしれない。
あるいは、まだ見たことのない色かもしれない。
しかし確かなのは、
“伝え方の順番”を間違えないこと。
正しさは、あとからついてくる。





