人は、なぜその場所を目指すのか

僕らの拠点である川口市領家5丁目は、準工業地帯に設定されている。
最寄りの駅からは徒歩25分。バス停はあるが、本数は少なく、時間通りに来ることもあまり期待できない。

さらに言えば「川口市」という場所自体、観光地ではない。
特別な名産品があるわけでもなく、有名な観光資源があるわけでもない。多くの人にとっては、東京に通う人たちの“ベッドタウン”というイメージが強い街だと思う。

ベッドタウン。
つまり生活の拠点としては一定の存在感があるものの、「わざわざ訪れる場所」ではない。

しかも川口市の中でも、この領家というエリアは、もともと大型鋳物工場が集積していたエリアだ。大泉工場という社名も、当時、隆盛を誇っていた鋳物産業の一端を担っていた名残である。現在、工場跡地には大型物流倉庫が多く立ち並び、人が遊びに来るような場所ではなくなっている。
正直に言えば、訪れる理由がほとんどない場所である。

2008年10月。
僕はこの地で働くことになった。

そのときの正直な感想は、戸惑いだった。
いや、むしろパニックに近かったかもしれない。

それまでの僕は、サラリーマンとして宇都宮や熊本といった地方都市の中心地で働いていた。ショッピングやエンターテイメントという目的を軸に、人を集め、街の経済を回す。人が集まる「理由」がある場所で、仕事をしていた。

ところが川口市領家には、その「理由」が見当たらなかった。

どうやって人を呼べばいいのか。
この場所で、何ができるのか。

完全にアウェーだった。自分の引き出しには、答えが入っていなかった。

転機が訪れたのは、翌年2009年の春だった。

先代が植え、長い時間をかけて育ててきた桜の木が、その年も見事な花を咲かせた。
その桜に合わせる形で、僕は友人知人を集め、花見パーティーを開催することにした。

池袋駅から貸切バスを2台チャーターし、100人を超える仲間がこの場所に集まった。工場跡地に人が集まり、桜の下で笑い、食べ、飲み、語り合う。

その光景を見たとき、僕の中で何かが少し変わった。

そして帰り際、仲間たちが口々にこう言った。

「こんな開かれた場所、なかなかないね」

「ここ、ロケ地に使えそう」

「クラブイベントとかやったら面白そう」

もちろん、思いつきのアイデアだ。
言うのは簡単で、実現するのは簡単ではない。

けれど、その言葉の中には、確かに「可能性」があった。
それまで僕が弱みだと思っていた場所を、彼らは面白がっていた。

数年後、僕はポートランドで、20年以上にわたりクリエイティブ業界を牽引してきた、世界的クリエーターのジョン・C・ジェイと話す機会を得た。

彼は大泉工場に来たこともなければ、川口という街も知らない。
けれど僕からの、<大泉工場をどうすれば面白くできるか>というプレゼンテーションを一通り聞いたあと、こう言った。

「ディスティネーションにする、というゴールを設定するのだ」

この言葉は、僕の中でずっと残っている。

ディスティネーション。
つまり「目的地」だ。

人が、わざわざ行きたいと思う場所。

この言葉を聞いたとき、僕の中でいろいろなものがつながった。
それまでぼんやりしていた構想が、急に輪郭を持ちはじめた。

大泉工場を、ただ働きに来る場所から、生きる上での学びも享受できる、素敵な環境を創造し続けるようなCAMPUSにする。

そのために、日本唯一のKOMBUCHA BREWERYをつくり、日本一のPlant-Based Cafeをつくる。Farmers Marketを定期開催し、食や農、環境に関わる人たちが集まる場所にする。

構想段階ではあるが、レストラン施設やサウナ、宿泊施設など、やりたいことはまだまだある。

ただ、それらのすべての中心には、ある存在がある。

先代が残してくれた「緑」だ。

もし緑だけを求めるのであれば、地方に行けばもっと雄大で、深く、美しい自然に触れることができる。それは間違いない。

けれど僕は、都市に近いこの場所だからこそ生まれる「緑との共生」があるのではないかと思っている。

都市と自然。
工場跡地と緑。
産業と文化。

そうした異なる要素が交わることで、ここにしかない体験が生まれるのではないか。

そして僕は思う。

ディスティネーションと感動体験は、切り離すことができない相関関係にある。

人がわざわざ訪れる場所には、必ず体験がある。
そしてその体験が、心を動かすものであるとき、その場所は記憶に残る。

一度の感動を生み出すことは、実はそれほど難しいことではない。
イベントを一つ開催すれば、ある程度の熱量は生まれる。

けれど本当に難しいのは、それを日常にすることだ。

感動体験を、継続して提供し続ける。
それができて初めて、場所はビジネスとして成立し、ディスティネーションになる。

そう考えると、最初は弱みだと思っていたこの場所は、今では大きな武器に見えてくる。

駅から遠いことも。
観光地ではないことも。
工業地帯であることも。

すべては、僕たちがどんな体験を生み出すかにかかっている。

どんな感動体験を提供できるかは、僕ら次第だ。

だからこそ僕は、これからも考え続けたいと思う。
まだ見ぬ感動を、この場所の日常にどう実装していくのかを。

もし、この場所づくりに興味を持っていただけたら、ぜひ下記リンクをご覧ください。
大泉工場リクルートページ